食べることは暮らすこと。食ぐらし

食べることは暮らすこと。食ぐらし

vol.01

日本料理の神髄は、料理をしないことにあり

池波正太郎も通った前川の鰻

池波正太郎も通った前川の鰻「材料がよくないと、どうしても甘みで味をごまかすことになるんだよね。天然の、こういう自然な甘みを生かそうと思ったら、あまく出来ないし、する必要もない」

これは、鰻に目がなかった故・池波正太郎が著書むかしの味に記した一節です。池波正太郎が足しげく通った鰻屋「前川」の鰻は、もちろん天然鰻。三代にわたるつきあいの、利根川の業者から仕入れ、冬になると、秋の下り鰻を水田に入れて半冬眠させ、必要に応じて割き白焼きや蒲焼きを焼いています。手間をかけているのだが、どこかと言いますと「素材」です。

一昨年、和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録され、話題をさらいました。この和食いわゆる日本料理、池波正太郎も記すように重要なのはごまかすことではなく材料、つまり「素材」にあります。西洋料理や中華料理など、外国料理と大きく一線を画す日本料理の独自性がそこにあります。日本はその地理的環境から海の幸、山の幸に恵まれ気候風土がよく、おいしいものを探し、その持ち味を味わうことを第一としました。

一方の外国料理は素材がどうであれ、うまく加工して食べることを目的としました。よい材料の前川の鰻をあえて甘みでごまかすなど必要ないわけですね。まさに「日本料理は素材に有り」。

素材を切る!が日本料理の神髄

「日本料理は素材に有り」

と言われると、「それでは料理人はつまらないのでは?」。そう思われるかもしれませんが、こんな話があります。先日、仙台で一番人気のあるイタリアンシェフが店を畳み農家へ転職。料理をすればするほど「素材」に行き着いたというのです。やはりそこに日本という国の料理の神髄があるように思えました。

戦前、日本では板前制度という料理界の制度がありました。料理人になるには、料理人の親方に仕えなくてはなりませんでした。最初は洗い方と言って、言葉の通り洗うだけ。そこから徐々に、下ごしらえ、盛りつけ、焼き物、煮物と来て、最後は"板前"です。まな板の前に立ち、包丁でさしみを引く。この切る行為が最上級です。すなわち、色々な味付けをすることより、素材を切ることが上にくる。ここに日本料理のすべてがあります。

日本は縦に長く、海の潮の流れも作物が育つ土も、その土地その土地で顔がまったく異なります。徳島で板前を極めたからといって、京都では通用しません。徳島と京都とでは、食材や食文化が違うからです。京都で習い、京都の土地に合った食材と向き合い、京都の板前として包丁の腕をあらためて磨いて行きます。包丁一本さらしに巻いて、粋な職人の生き方は粋な日本の食文化でもあるわけです。

結論。その土地に合った、旬の美味しい食材をできるだけ素材のまま食卓に出す。それが日本料理の神髄。そう考えると、世のお母さんは気持ちが随分ラクになります。まずお住まいの土地の美味しい食材を揃えましょう。そして、切りましょう。実は、それが一番のあなたの土地の日本料理。さあ、皆で美味しい日本料理を楽しみましょう!

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食のぐるり株式会社
代表取締役

高原 純一

企業のマーケティング・コンサルティング、プロジェクト・ディレクションを基盤に講演、執筆業務を営む。
傍ら、消費者と農業・漁業生産者の目線から、食卓と暮らしのしあわせづくりにも取り組んでいる。

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